第154章 阿部明人に嫁ぐ

阿部蓮太郎は横山社長の差し出したグラスには手をつけず、身を乗り出して脇に置かれていた新しいグラスを取った。酒を少し注ぎ、ひと口だけ含む。

それから軽く手を上げて合図する。

「今夜はこのあと予定がある。契約、いけるな」

そう言って、契約書を横山社長へ差し出した。

横山社長はにこにこと受け取り、余計なことは言わず、そのままさらりとサインを入れる。

とはいえ、席がすぐにお開きになるわけでもない。阿部グループと横山社長の契約更新は、臨市の古い商業施設の立ち退き・解体計画に直結している。詰めるべき細部が山ほどあり、最終判断を下せる人間が阿部蓮太郎しかいない以上、そう簡単に席を立てなかった。

...

ログインして続きを読む